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未読

12. 図書室の注釈

あらすじ:『記憶は消えないが更新できる』という一文が今日の背骨になる。
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昼休みの図書室は冷房が強く、紙の匂いにインクの冷たさが混じっていた。薄い情報倫理の本に、鉛筆の線が引かれている。『ネットの記憶は消えない。しかし更新はできる。』誰かの注釈が、静かに光る。

自分がノリで晒した断片も、三年前のログも、消えはしない。けれど、上から新しい意味を重ねることはできる。ページを閉じると、背筋が自然と伸びていた。出入口のチャイムが鳴り、現実へ背中を押された。

返却台に本を戻すと、司書の人が小さく会釈をくれた。意味のない礼だと思ったが、意味のない礼こそ背骨になる瞬間がある。静かな承認が、肩にそっと重なった。

カウンターの鉛筆を借りて、自分のメモに小さく線を引く。誰にも見せない注釈が、今日を今日として区切る印になる。