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14. チョークの粉

あらすじ:演算が揃う瞬間、小さな達成が粉になって指に残る。
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「茂木くん」。呼ばれて黒板に立つ。係数が絡み、途中で迷い、深呼吸してから並べ直す。数字が整列した瞬間、背後で小さなざわめきが生まれた。先生の「いいね」が低く落ちる。

チョークの粉が指に白く残る。達成は派手ではないが、確かに触れる。袖でそっと拭うと粉は空気に溶けて見えなくなった。けれど、指先の記憶は消えない。手の中に、小さいけれど折れない芯が一本、確かにある。

席へ戻る通路で、友だちでもない誰かと肩が軽く触れた。謝るほどでもない衝突に、妙な安堵が走る。世界は敵ばかりでは構成されていない。

席に戻ると、さっき触れた肩の主がこちらを見て、小さく顎を引いた。合図とも礼ともつかない動きが、妙に丁寧に感じられた。