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02. 灰色の廊下、白い呼吸

あらすじ:高校の廊下に残る中学の影。呼び名と噂が重なる朝。
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昇降口を抜けると、灰色の床が鈍く光った。高校に進んでも消えない呼び名が背にまとわりつく。「おい、ちくわ」。軽い声色に反して、胸の内側は微かに痙攣する。黒板の文字は新しく、今日の課題は昨日と違うのに、噂だけが古い温度のまま漂い続ける。

中学でノリのまま晒したプロフィール──尾島中一年四組二十七番、誕生日、住んでいる町。バカみたいな断片がネットに貼り付き、今も誰かの口にのぼる。机に顔を伏せ、窓の白い光に合わせて呼吸を整える。吸って、吐く。胸の奥に、ようやく音のない空間ができた。

廊下の掲示板には進学のポスターが増え、矢印は皆それぞれの未来を指している。自分の矢印はどこに刺さるのか。胸の奥で小さな針が左右に揺れ、やがて白い呼吸のリズムに同調した。