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26. 土手の風

あらすじ:川の土手で、自分の名前をひとつずつ口にする。
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太田の空は高く、夕方の土手を風が渡る。「ちくわ」「ちくえなが」「もち」。小さく口にして、最後に本名を置く。風に溶ける音は、誰にも届かない。だから正直でいられる。

呼び名たちは、遠くから自分を指し示す道標で、近くでは護符になる。ポケットの中でスマホが震えたが、見ないままにした。風のほうが、今日の通知だ。土手を下りる足取りは、来たときよりも一定だった。